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賢い料理家のギャランティー交渉術

スキルアップ
2019年07月12日
料理の話なら目をキラキラさせていくらでも話題があふれてくるのに、お金の話になると途端に引っ込み思案。料理家に限らず、フリーで働く人にとても多いのがこのタイプです。しかし、避けて通ることはできません。フリーの仕事を選んだ以上、ビジネスとお金はどちらも大切なファクターです。どうすれば気負わず楽しく、お金と付き合っていくことができるのでしょうか。 >>料理家は売り込まずに売り込むのが得策 >>フリーのあなたに「自分マーケティング」のススメ >>売り込みベタのためのPR資料作成術

レッスン料の設定は「今後無理なく教室運営できるかどうか」を計算して決める

料理研究家のお金問題。まずは「料理教室のレッスン料」について考えてみましょう。この場合、話は比較的スムースです。かかる食材費や手間、労力や集める生徒数などを鑑み、多少はライバルや先輩料理家たちの実例も参考にしながら自身で設定することができるからです。
ここでポイントとなるのは、「一度設定したレッスン料はその後変更するのが難しい」ということ。特に料理教室を今から始めるという方は気をつけたいところですが、「最初は駆け出しで不慣れなのですごく安い価格でスタートしました」というと聞こえはいいのですが、その安さだから固定客になってくれる人も多くなるだろうということに留意しておかなくてはなりません。リピーターとして来てくれるようになり、懇意になった生徒に対しては、その後自分の力に自信が持てるようになっても値上げを言い出すのは至難の技。結局、初期のクラスは自然消滅するまでずっと価格据え置きで続け、それ以外のクラスを増設しようにも、高い価格設定にする理由が見出せなかったり、SNSなどで初期の安価なレッスン料が口外されてしまって値上げができないなど、いつまでも「初期設定」に苦しめられることになりかねません。
なので、料理教室のレッスン料を設定する場合、自分自身の方向性が固まっていない時や、今後の可能性を探るためのトライアルとして新規設定するレッスンなどは、「●ヶ月間のみの限定額」「初年度に限りこの価格」など、内容が暫定的なものであり今後変化する可能性を含んでいると明記しておいた方が良いでしょう。
少し話が脱線しますが、いくつかの正規コースを設定した上で、そのコースには今後無理なく運営できるような価格を付け、その上で「初回の人だけ参加できる1回のみの体験レッスン」を安価で実施するのも効果のある方法です。正規コースに無理な価格設定をする必要がなく、また、どんな体験レッスンに人が集まるのかを考察することで、今後新設するレッスンの方向性が見えやすくなるというメリットもあります。

ギャランティーは、仕事に対する通知簿だと心得て

次に考えたいのが「企業やメディアから受ける仕事に対するギャランティー」問題。これがおそらく、駆け出しや社会経験が少ない人にとっては最も難しいところではないでしょうか。なぜなら、相手先の都合や状況によって同じような仕事でもまったく条件が異なるからです。似たようなレシピ考案と料理制作の仕事なのに、A社からの依頼では1万円、B社なら10万円、などということがザラにあるのが、料理家を取り巻くメディアや広告といった業界。運よくたくさんの企業やメディアから仕事の依頼が舞い込むようになっても、目まぐるしく異なる条件をどのように理解して処理すれば良いのか途方に暮れる人も少なくありません。
まず最初に、「提示されるギャランティー額は、現在のあなた、もしくは過去の実績に対する評価であり、今後の期待値を反映している」と理解することに慣れてください。上記で1万円で依頼してきたA社は、あなたのことをまだよく知らないのかもしれません。もしくは、想像以上に簡単に終わる仕事なのかも。逆に、会社の都合で他に予算を割かなくてはならず、残念ながら料理に重きを置けない状況という可能性もあります。後者のB社も同様。実は想像を絶する重労働が待っているかもしれないし、誰かの紹介であなたに対して過剰な高評価がなされているのかもしれません。
さて、こんな時にどう対応すれば良いのでしょうか。答えはシンプルです。「ギャランティーの提示を受ける時には同時に、仕事内容についてなるべく細かく事前確認しておく」ことです。根掘り葉掘りしつこく聞くのではなく、淡々と項目別に確認するという体裁で実行してみてください。例えば、レシピ考案の必要点数、その中から実際に採用される点数、使用OKな食材の種類、試作レシピ提出の有無、試作や本番の料理制作にかかる食材費が支払われるかどうか(ギャランティーに含まれていることも多い)、スタイリストが付いているかどうか、アイデア出しの期日、など。金額の裏にどれだけの業務量が隠れているかを考察するための情報なので、会ってきちんとメモを取ったり、メールのやり取りとして記録に残しておくことも重要です。
発注先のクライアントが料理に不慣れな人の場合は、さらに注意が必要です。料理系のメディアやメーカーであれば、料理撮影やアイデア出しには試作が必要だったり、撮影時にはスタイリングも重要だということをある程度理解していることが多いのですが、その逆の場合もあるからです。食材の知識のない相手から2シーズン先の旬の料理を作って欲しいと言われたら、食材の取り寄せ準備だけで何万円もかかる場合があります。昨今増えた料理家の肩書きに「フードスタイリスト」がありますが、この言葉を「料理のほか、器やカトラリーを揃えるスタイリング業務もすべてやってくれる人」だと認識している人も大勢います。料理制作以外に、小物のリース代と撮影現場への運搬費だけで、ギャランティーをはるかに超えて大赤字になってしまったという笑えない話も多いのです。

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写真/Unsplash