
もちろん、相手に非がある可能性もあります。しかし、前述したように、想像もし得ない部分で誰かが迷惑をこうむっているかもしれません。怒る相手に対峙するのは勇気と体力が要ることですが、怒りをぶつけてくる分には、まだ人間関係をつなぎとめる余地があるということ。あなたのほうで「もうこんな相手(企業)は願い下げ」ということであれば話は別ですが、業界というものは横の結びつきが強いものです。例えこれっきりになるとしても、穏便に、気分を害していることさえ相手に察知されることなく関係を終わらせる方が得策です。
しかし、あなたの側にはまったく思い当たることがないのに、いつしか仕事がこなくなったり、懇意にしていた企業が自分と似たようなタイプの他の料理家にばかり仕事を依頼するようになっているのを見つけてしまったら? これこそ、ビジネスシーンでの怖い例です。対価と代償によって関係が生じるビジネスの場では、プライベートとは違い、ミスや失敗に対して「反応さえ見せずに関係終了」ということがあります。企業では、怒る代わりに、あなたに似たタイプの人材にその仕事を依頼して、仕事に穴を開けず、続けられるように対応するのです。
お詫びや謝罪が許されないパターンとは?
成功しているフリーの人というのは、驚くほどに義理堅いことが多いものです。特に売れっ子であればあるほど。
例えば、スケジュールの組み方。「先に決まった方が優先」とルールを決めている人も多く、仕事が入っている日に、他からとても魅力的な仕事の依頼が来るというようなことは料理家でなくてもフリーであればざらにあります。しかしそのような時も、先に決まった仕事と天秤にかけるのではなく、先約に絶対に支障が出ないと確信できる場合以外は、後からきた内容がどれほどやりたい仕事であっても先に決まった仕事を優先するのがビジネスのルールです。逃した仕事を悔やむ必要はありません。なぜなら、そういう仕事の仕方をしている人には必ず、再び似たようなチャンスがめぐってくるから。逆に、どうしても逃したくないと焦るあまり、架空の理由を作って先約を断ってしまったら? バレなければいいかもしれませんが、狭い業界です。どこかでそういう事実は伝わってしまうもの。そして、先約があるのに次の仕事欲しさに断ってしまったことが判明してしまったら、その場合はお詫びどころではすみません。先約をくれた相手だけでなく、業界内でうわさがめぐり、仕事が回ってこなくなる可能性も。それほど、義理を破ることというのは不信感を持たれてしまう最たる例なのでご注意を。
ビジネスシーンで、お詫びも効かないほどの致命的なミスにつながることといえば、不義理のほか、連絡下手という場合もあります。メールや電話という非常に便利なビジネスツールがあるにもかかわらず、必要なタイミングで必要な連絡を欠いてしまったことはありませんか。「ただでさえ忙しいのに、さらに慣れないビジネスメールや電話なんて無理」と思うかもしれませんが、仕事の前後というのは、たくさんの確認事項が生じるものです。自分から連絡するのが苦手という人であれば、緊急時にいつでもつながる連絡先を伝えておくなり、状況が変更する前後に、たとえ先方から返事がなくてもこちらから一報、現状を報告するメールをするなりして、相手が常に安心していられるように気配りが出来ます。
「売れっ子は義理堅い」と言いましたが、同時に「売れっ子は連絡が密」という方式も当てはまるかもしれません。世に伝わっているのは、誰もが認める素晴らしい才能であったりしますが、実は誰とでも気持ちよく仕事ができる才能こそ、フリーとして活躍できる何よりの強味です。
では次に、せっかくお詫びをしてもかえって逆効果となる例について考えてみましょう。