
しかし時代は変わりました。企業やメディアに勤める人々が、現在、消費者に向けて打ち出したいものは、料理そのものだけではありません。どんな旬の食材を用いてどんな調味料や料理道具を使って料理にするか。どんな器に盛り付け、どんなクロスやカトラリー、花やワインを合わせてそれらを味わう時間を楽しむか。一皿の料理の前後に広がる美しいライフスタイルこそ、最強のコンテンツであり、売れるアイテムです。
人気の料理研究家というのは、たとえレシピの試作に悪戦苦闘する日々が続いているとしても、そういったことを冗談混じりに話したとしても、前面に出すことはしません。「毎日忙しくて」と言いつつ、おいしい手作りのスープを朝のインスタグラムで投稿し、週末には自分と家族やペットのために旬の果物を使ってケーキを焼くような、そんな「余裕」を醸し出しているものです。周りの人々は、料理家のそんな“気配”を嗅ぎ取って、さらに仕事を発注したくなる……。その結果、人気はますます高まることになるのです。
まとめ
料理が好きで、料理上手を自認している人ほど、時に話題の料理家のレシピを試した結果「おいしいけれどごく普通。なんでこの料理家がこんなに人気なのか、わからない」と口にしたりします。
が、それは料理に対して真剣すぎるあまりに大切なことを見失っているのではないでしょうか。そもそも、なぜ料理が好きになったのか。それは「料理をしていると楽しいから」だったはずです。誰かにほめられるとか心身没頭できるとか、食材をいじるだけで癒されるとか、要するに味わい以外の様々な要因が、その人を料理好きへと育てていったはずなんです。
人気の料理家というものは、そんな何気ない楽しさを料理初心者に伝える能力に長けています。また、そんな能力には多くの人々がビジネスの勝機を信じて飛びつくものです。一言に料理の仕事といってもさまざまですが、人々から愛され求められる料理家になると心に決めたなら、技の精進はもちろんのこと、その他で何が必要か、折に触れて立ち止まり考えてみるといいかもしれません。