鱧の子椀

人気店のシェフに2つのレシピを教えてもらう連載企画。旬の食材を使ったレシピと、プロの技のレシピをご紹介していきます。今回は、西麻布にある和食店『伊勢すえよし』の料理人・田中佑樹さん。旬の食材を使ったレシピ「鱧の子椀」を教えていただきました。

出汁を引き、季節を演出し、美しい椀に盛り付ける・・・。料理人のセンスや個性が出る椀物は、まさに日本料理の“華”そのもの。

「日本料理では、椀刺(わんさし)といって、お椀と刺身で料理人の腕がわかると言われています。刺身で包丁の技量と魚の扱い方、椀で味付けを確認するというわけです。今回は、この季節ならではのお椀をご紹介しましょう。主役は、これから脂が乗って旬を迎える鱧です。鱧がちょうどお腹に卵を抱えるようになる時季になりますが、その鱧の身と、プチプチした食感が楽しい夏だけの珍味、鱧の子を一緒に食する、鱧の親子の椀です。鱧が手に入らなければ、あいなめやハタ、クエなどで代用してみてください。鱧の子の代わりには、明太子で食感を楽しむのもよさそうです」

お椀の出来栄えを左右する出汁は、どのようにしていますか?

「出汁は、鍋に入れた水に昆布を浸し、弱火で60℃に保ちながら1時間煮出してから、昆布を抜き85℃〜90℃まで温度を上げて、鰹節を加えて10秒静かに待ち濾したものを使用しています。1ℓの水に、昆布が15g、鰹節が30gの分量です。菊乃井での修業時代に教わった作り方ですが、旨み成分をじっくりと抽出した、上品でまろやかな味わいです」

鱧の卵巣を沸騰した湯に入れ、15分ゆでる。鱧の卵巣の血合いは臭みの原因になるので入れないこと。

ボウルにざるを2枚重ね(下は目の細かいざる、上は目が粗めのざる)、ゆでた鱧の卵巣を上げる。

手で押すようにかきまぜて薄皮を取り除き、子を落とす。うまく落ちない場合は、泡立て器で混ぜてもよい。ざるの目に残った卵は、水をかけて落とす。

小骨が多い鱧は、身に包丁を細かく入れて、骨を断つように切る“骨切り”が必須。包丁は身に対して垂直ではなく、やや斜めに入れると、身がくっつきにくい。

皮と身のぎりぎりのところまで骨があるので、包丁は皮までしっかり入れること。皮1枚を残して包丁を止める技は、プロならでは。

鱧を湯引きする。沸騰した湯で、まず皮目を10秒ほど加熱する。鱧の皮はゼラチン質なので、先に皮に火を入れて固まれば身が丸まらない。

皮を加熱してある程度固まったら火を弱め、身の部分を沸騰した湯に落とし、さらに10秒ほど加熱して、ざるに上げる。

松葉柚子を作る。柚子の皮は白い部分を除く。細長い長方形に切りそろえ、片側をつなげたまま中央に切りこみを入れる。

皮を指で広げ、両方の端を引っかけて交差させ、松葉の形に整える。

器は、富士山に見立てた富士見椀。蓋をとると、馥郁とした豊かな香りの出汁がふわりと鼻をくすぐります。絹のようになめらかな舌触りの鱧と、小気味良いぷちぷちとした食感が楽しい鱧の子が舞う出汁が渾然一体となった、まさに至高の逸品です。

2020年08月18日

レシピ作成
田中佑樹さん
調理時間
30分 ※内準備時間0分

材料2人分

鱧(おろしたもの)
80g
鱧の子(鱧の卵巣をゆでてバラしたもの)
12g
一番出汁
240ml
葛(または片栗粉)
適量
A
├薄口醤油
1ml
├濃口醤油
1滴
├酒
5cc
└塩
ひとつまみ
梅肉
適量
青柚子の皮
適量

手順

  1. 1

    鱧の子の下処理をする。鍋に水と酒(分量外)を8:2の割合で入れ、塩少々(分量外)を加えて沸騰させる。鱧の卵巣(分量外、店ではまとめて仕込む)を入れて15分ゆでる。

  2. 2

    1を水でさっと洗う。ざるに上げて、鱧の子をほぐしてバラバラにし、手ぬぐいで水気を絞る。

  3. 3

    鱧を骨切りする。

  4. 4

    鍋に出汁、2の鱧の子を12g、柚子の皮を入れ、軽く煮立たせたら倍量の水で溶いた葛を入れて、とろみをつける。柚子の皮は取り除き、Aを加えて味を整える。

  5. 5

    3の鱧は30~40gに切り、塩少々(分量外)を加えた湯で湯引きする。

  6. 6

    松葉柚子を作る。

  7. 7

    器に、5をのせ、4の出汁を張り、梅肉と松葉柚子をあしらう。

撮影/田尻陽子 取材・執筆/岡井絹美子

伊勢すえよし 田中佑樹さん
料理屋を営む父の背中を見て育ち、「4歳のときには自分で目玉焼きを作った」という根っからの料理人。高校卒業後、服部栄養専門学校で勉強し、卒業後は京都の老舗料亭『菊乃井』で4年間修業。その後カナダへ留学し、バックパッカーで世界一周の旅へ。現地の飲食店で働きながら食への興味を深める。帰国後、地元・三重県にある父親の店で働きながら生産者の元へ足を運び、故郷の豊かな食文化の魅力に触れる。2015年に独立し、西麻布に『伊勢すえよし』をオープン。

SHOP INFORMATION

店名:伊勢 すえよし
住所:東京都西麻布4-2-15 水野ビル3F
Tel:03-6427-2314
営業時間:12:00~15:00、17:00~20:00入店
定休日:日