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趣味と仕事の境界線はどこにある?

スキルアップ
2019年05月10日
「小さい頃から料理が好きで、趣味が高じてこの世界に」。この道に就いた理由を問われると、おそらくほとんどの料理家が疑いもなくこう答えているのでは? もちろんそれ自体に正解も不正解もありません。しかし、同じような理由で料理を生業(なりわい)にしていながら、売れっ子とそうでない人との差は歴然。そこにある違いとは何なのでしょうか。実は、「趣味が高じて」と言いながら、「趣味のまま」でいるうちは仕事にはなりません。趣味と仕事の境界にある歴然とした違いを考察してみましょう。 >>料理家こそ自分マーケティングが大切! >>効率的に人脈を築くにはこんな方法がおすすめ >>企業やメディアに愛される料理家の秘密

彼らも「料理が大好き。一生の趣味」と口にしますし、そこに嘘はありません。違うのは、プロの料理家や料理教室主宰者というものは、自分だけで完結するシチュエーションと相手がいる場合とで、料理に対する姿勢をガラリと変えているということ。友人や家族が集まるプライベートの場では得意の料理をとっておきの食材や自慢の調理道具で作ったりしますが、読者や視聴者、消費者に向けて展開する料理となると、「この食材はいつでもどこでも手に入るか」「この調理器具は便利だけれど一般の人には難しすぎないか、高価で持っている人が少ないのではないか」などを徹底的に考え、さらに、仕事を発注してくれたクライアントの意向も汲んで料理を考案します。

趣味と仕事の境界線 1. 自分の得意より相手の不得意を優先する

例えばの話です。
上記で料理家が作る料理がとびきり美味しいポトフだったとして、骨付き羊肉と数々のハーブ、中近東の鍋を使って作るような凝った独自の料理であれば、それは「趣味のポトフ」。にんじんやじゃがいも、豚肉とコンソメ、隠し味が醤油ひとさじというような、誰でもフライパン一つで簡単に作れるような手合いのものであれば、一般人に支持される「仕事のポトフ」。人気料理家にとっては、どちらも美味しいのは当たり前の自慢の一皿。でも、作る相手やクライアントが求めている方向性に沿って、臨機応変に料理の表現方法を変えているあたりがプロフェッショナルです。
簡単なことなのですが、プロになり切れない人というのは、意外にこの「裏に潜んでいるプロフェッショナリズム」に気づくことができないものです。なぜなら、自分も料理が大好きだから。
「こんな料理、誰だって作れるし珍しくもないじゃない」
「こんな地味な、見た目もそんなに美しくもない料理の何がよいの」
他の料理家がメディアで紹介しているレシピを目にするとき、ついそのように考えてしまうことも多々あるはずです。そんなときは、その料理を作ってみる人たちが実際はどんな層であるのか、仕事を発注した企業がどのような業界で、どんな目的のもとに依頼したのかまでを読むクセをつけてみてください。なんなら、だまされたと思ってそのレシピを一度自分でも試してみると、手順を減らすために下味の付け方に意外な工夫がしてあったり、レストランのような美味とは言えないまでも素人でも失敗する確率が少なかったりという、細かいことに気づくかもしれません。

趣味と仕事の境界線 2. 納期とお金にはかなり厳しく

大活躍を続けているプロの料理家の仕事っぷりとはどのようなものだと思いますか。「こだわってこだわってこだわり抜いて、一つのレシピを完成させる食のアーティスト」を想像している人には意外かもしれませんが、成功する料理家というのは、決断が早く淡々としている人が多数派です。
彼らはまず、仕事の依頼をされた時に具体的な反応を示します。「できます」か「無理です」の二択。その判断を早く行うために、相手から、①納期、②制作費とギャランティー、③絶対に守らなければならないポイントを、躊躇なく(しかし感じの悪い印象を与えることなく)聞き出すことも上手です。

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写真/Unsplash