人気店のシェフに2つのレシピを教えてもらう連載企画。旬の食材を使ったレシピと、プロの技のレシピをご紹介していきます。2月は、南青山にある中国料理『慈華(イツカ)』の料理人・田村亮介さん。今回は、プロの技のレシピ「豆腐の極細切りスープ」を教えていただきました。
絹ごし豆腐を包丁で髪の毛のごとく、極細切りにした中国料理の刀工技術のすばらしさがわかるスープ料理です。
澄んだスープに密に浮かぶ、白糸のような繊細な物体。にわかには信じられませんが、この正体は“豆腐”です。しかも機械ではなく人の手で生み出された、まさに超絶技巧、これぞプロの技!
「中国の揚州に伝わる古典料理で、“文思豆腐(ウェンシィドウフ)”と呼ばれるものです。文思和尚が考案したとされる精進料理で、実際に現地に足を運んだこともありましたね。とにかく、豆腐を細く細く、髪の毛ほどの細さに切ることが決め手です。豆腐がすぐに包丁にくっついてしまうので、水で濡らしながら作業してください。練習あるのみです」
この精巧な豆腐の淡い旨味を受け止めるスープも絶品。お店では鶏や豚のひき肉などでとった、雑味のない味わいの清湯を使用しています。あれこれ調味料を使っているわけでもないのに、一口すするとたおやかな旨みに控えめな塩味がほんのり漂い、シンプルという名の奥深さを実感します。
「中国料理は安い素材や調味料でも美味しくできますし、その幅広さも魅力ですが、私はやはり素材ありきだと思っています。生産者の方が大切に育ててくれた食材を、調理させてもらっているという気持ちが大きいですね。素材そのものを全面に打ち出して、調味料はあくまでも素材の旨みを引き出す役割りだったり、足りないときに補うくらいでちょうどいいかなと思っています。“味を入れる”というより、背中からそっと押してあげる、そんなイメージで調味しています」
金華ハムは世界三大ハムのひとつで、脂肪分が少なく、赤身に良質な甘味があるのが特徴。スープに使うと素晴らしい深みが出るが、他のハムでは代用できないので、なければ省略する。豆腐に合わせて極細く切るのがポイント。
豆腐は高さを半分にし、端から少しずつ包丁をずらしながら極薄くスライスする。包丁の刃は薄いものがよい。「豆腐は高さがあると崩れやすいので、まず高さを半分にカットしてください。包丁に豆腐がくっつかないように、豆腐に水をかけながら作業するのを忘れないようにしましょう」
豆腐とまな板の間に包丁を入れて平行に滑らせて、豆腐を横向きに寝かせ、手で水を豆腐にかけながら、なるべく平らにする。
端から極薄いせん切りにする。
髪の毛ほどの細さの豆腐は、そのままにしておくとくっついてしまうので、すぐに水に放つ。
細かい目のざるで豆腐を濾し、熱湯をかける。「熱湯をかけることで、豆腐の豆臭さを取り、軽く温めることができます」
とろみをつけた清湯に、豆腐をそっと加える。「豆腐を崩さないように、混ぜるときは丁寧に」
盛り付ける時も細心の注意を。菜箸を立てて、中心から円を描くようにやさしく混ぜる。