人気店のシェフに2つのレシピを教えてもらう連載企画。旬の食材を使ったレシピと、プロの技のレシピをご紹介していきます。今回はフランス料理『レストランオカダ』の岡田宏シェフ。プロの技のレシピ「仏産鴨のコンフィとイベリコ豚頰肉のガレットのカリカリソテー グリビッシュソース」を教えていただきました。さまざまな肉の部位を別々に下処理し、時間と手間を惜しまずに作り上げるこの料理は、修業したパリの人気ビストロで得た、料理人の心構えが生きるひと皿。味や食感、香りをどんな風に出したいかをイメージし、仕上がりから逆算して仕込みを重ねます。
丁寧に、ひとつずつ。時間と技が惜しみなく注がれた、
ビストロ仕込みの庶民の味。
フロマージュ・ド・テット、直訳すると頭のチーズという面白い名前のお惣菜は、豚の頭や豚足など、いろんな部位を豚のゼラチンで固めた煮凝りのようなもの。フランスの総菜屋などでよく見る、昔ながらの料理です。岡田宏シェフはこの庶民的なお惣菜をベースに、さらに鴨肉のコンフィなどを加え、様々な肉の部位ごとの味や、こりこり、ぷるぷるなど食感の違いを互いに引き立て合う、賑やかな料理に仕立てました。豚足や豚タン、鴨のコンフィなどはそれぞれを別々に仕込み、完成まで3日はかかる手間ひまのかかるひと皿。ひと口食べると、様々な要素や味、香りなど、奥行きを感じます。それはシンプルとは真逆の、プロの計算された味です。
素材にあまり味を重ねない、できるだけシンプルに仕上げる料理がある一方で、下拵えや手間を惜しまずじっくり時間をかけた料理もあり、どちらもそれぞれに良さがある。岡田宏シェフはシンプルな前者も好きだけれど、最近は後者をより大切にしたいと考えています。その理由は、フランスで修行していたころの話に遡ります。
プロの料理人が本気を出して作る料理は、こんなにもおいしくなる
「フランスの尊敬する醸造家のワイナリーで働いていたとき、パリでおいしいと評判だというビストロを紹介され、しばらく修業させてもらいました。その店は、伝統的な骨太ビストロ料理をベースにしながらも料理人独自のアイデアが随所に光り、個性が現れていた。フランス料理の“今”の面白さが体感できる場でした。そこで得られた大きな気づき、それは、プロの料理人が本気を出して作る料理は、こんなにもおいしくなるのだという料理の可能性についてです。素材を生かし、なるべくシンプルなアプローチで作る料理がある一方で、下拵えや仕込みの手間を惜しまず、時間をかけて丁寧に調理することで、同じ素材でも全く仕上がりが違ってくる。考え抜かれたおいしさというものが、確かにある。そのことを料理人が身をもって知っていれば、いざ素材を目の前にしたときに、どう料理しようかという選択肢が広がる。実際に自分が独立して店を持ってみると、改めてその考え抜かれたおいしさを大事にしたいと、いつも感じます」
まずは下拵えから。鴨は1%の塩をして12時間寝かせ、鴨脂で70℃前後を保ちながら3時間ほど加熱してコンフィにする。残った鴨だしは取っておく。豚足は、大鍋にかぶるぐらいの水(分量外)と玉ねぎ、にんじん、セロリ、しょうがなどの香味野菜(分量外)を入れ、最初は強火で沸かしてアクを取り、その後中火で3時間ほど柔らかくなるまで茹でる。鴨を骨から外したら細かく切り、容器に入れて冷やし固める。豚ほほ肉も鴨同様にコンフィにする。この作業を前日までに終えておく。
フライパンにオリーブオイルを中火で熱し、鴨のコンフィの皮目をこんがり焼く。フライパンに残った油は取っておく。
鴨を骨から外し身をほぐす。
豚足は1.5㎝ほどの角切りにする。豚ほほ肉も同様に角切りする。