ここ数年、よく耳にする食のキーワード「ジビエ」。今月は、食に携わる人たちから高い関心が寄せられている、野生鳥獣の肉を使った料理を習います。
家庭でジビエを楽しむには?
ジビエは、もともとフランスをはじめとするヨーロッパで、貴族の伝統料理として発展してきた食文化。フランス語で、狩猟によって食材として捕獲された野生鳥獣や、その肉そのものを指しています。野生の猪や鹿、熊など、日本でも古くから狩猟肉を食べる習慣はありますが、かつては一部の地域の人だけが食べるものというイメージでした。それが今や、国内でも多くのフレンチレストランで、ジビエ料理が楽しめるようになっています。
そこで今回は、ジビエ料理専門のレストラン、東京・六本木「ラ シャッス」オーナーシェフの依田誠志さんに、家庭で再現しやすいジビエ料理を教えてもらいました。依田さんはフレンチのシェフという立場で、自ら狩猟を行い、下処理をし、料理として提供することで知られ、ハンターや同じフレンチシェフたちからも一目置かれる存在です。
ジビエ初心者向けにと依田シェフが選んでくれた料理は、鹿肉を使ったストロガノフ。独特の臭みがあり、食感がかたいと敬遠する人もいるジビエですが、高タンパク低カロリーで栄養価が高く、冬に体を温めてくれる効果があるという専門家も。正しく調理すればクセがなくうま味だけが残り、ジビエにしかない深い味わいがあることを実感できるでしょう。
「狩猟シーズンでもある冬の野生鳥獣は、野山を駆け回って引き締まった肉質を持ちながら、適度に脂肪を蓄えています。調理するときに重要なのは火入れ。野生鳥獣は生で食べるのは厳禁ですが、脂がのっていない個体が多いため、焼きすぎると固くなるので注意しましょう」
鹿肉はロゼ色に仕上げるのが鉄則
今回は、依田シェフが北海道で仕留めたエゾシカを使いましたが、鹿肉は食肉専門店、通販、道の駅などで購入することができます。入手した鹿肉は、すぐに使わなければ、速やかに処理をして適切に保存するのがおすすめ。余分な筋や脂などを取り除いて掃除をし、使いやすい大きさにカット。真空パックで冷凍保存するか、ふたつきの保存容器にクセのない油(ひまわり油やピュアオリーブオイルなど)、ハーブ(タイム、ローリエ、ローズマリーなど)と一緒に漬けて冷蔵保存しましょう。
鹿肉を切るときは、筋に沿ってカットしましょう。筋を切ってしまうと、そこからうま味が逃げてしまうことに。
鹿肉を焼くときは表面に薄く粉をまぶし、余分な粉をはたき落とします。短時間でソテーしてフランベし、表面にだけサッと焼き色をつけます。「鹿肉はロゼで食べるのが一番おいしいんです」
ソースは、鹿肉を焼く前に作っておきましょう。ソースの仕上げではグラス・ド・ビアンとレモン果汁を入れて味を締め、バターを加えて香りととろみをつけます(バターモンテ)。そこに表面を焼いた鹿肉を加え、短時間で一気に加熱。こうすることで、口にしたときにとろけるやわらかさに。
自然環境を保全するために行われる野生鳥獣の狩りを、害獣駆除としてではなく限られた資源を有効活用するとともに、豊かな食材を得るための手段に変換できるジビエ。尊い生命をいただく代わりに、肉だけでなく内臓や骨、血液に至るまで、すべての部位を余すところなく料理に使い、感謝の気持ちを捧げようという精神が息づいています。
家畜と異なり個体差の大きい野生鳥獣の状態ですが、狩猟を行うシェフとしてその道を開拓した依田シェフは、ひとつひとつの個体を見極め、その味わいを最大限に引き出すテクニックの持ち主。ジビエをもっと深く知りたくなったら、依田シェフと直接会話を楽しみながら最上のジビエ料理を堪能できる、「ラ シャッス」に足を運ぶことをおすすめします。