人気店のシェフに3つのレシピを教えてもらう連載企画。旬の食材を使ったレシピ、思い出のレシピ、人気のまかないレシピの3品を教わります。1月はイタリアンやフレンチをベースに旬の素材を生かす「クラージュ」の大井健司シェフ。2つ目のテーマ“思い出の料理”は「リボリータ」。トスカーナの郷土料理で、黒キャベツをはじめ、いろんな野菜と余ったパンを煮込む、食べるスープのような家庭料理です。
「クラージュ」シェフ・大井健司さん。
誰もが知る郷土料理を、誰も見たことのない新しい皿に
トスカーナのカレンツァーナという小さな町。とくに食で有名というわけでもないその町には、かつてほんの数年間だけ開いていた幻の銘店がありました。モナコのルイ・キャーンズで全てのポジションを経験したシェフとパティシエの女性、プラス1人の若手3人で作ったその店「レ・トレ・ルネ」は、3つの月と言う名のレストラン。席数20ぐらいのこじんまりした店でしたが、開店1年ですぐに星を取り、あっという間に人気店になりました。イタリアの昔ながらの郷土料理をモダンに再構築する斬新な皿が話題で、連日満席。大井さんが修業していた当時は、朝から夜までほぼ休憩なしのハードな日々でしたが、若手シェフの斬新な発想が面白く、刺激の多いキッチンだったそう。そして名物のひとつが、トスカーナ人なら誰もが知っている郷土料理リボリータ。一般的には黒キャベツや白インゲン豆などと、余って硬くなったパンをスープとともにじっくり柔らかくなるまで煮るパン粥のようなものですが、この店で出していた皿は様子が全く違い、イタリア人もびっくりするような斬新なものだったそう。同じ素材を使いながら作り方や盛り付けは再構築し、スープ状に柔らかくなるまで煮込むパンは逆にパリパリのチュイル状に焼き、刻んで一緒に煮込む野菜は炒めて食感を残したまま盛り、さらにその形が分かるように小さく仕上げ、白インゲン豆のスープとは別にしてサーブしていました。「かなり突拍子もない試みなんだけど、食べるとリボリータの要素はきちんとあって、食べたお客様は面白がってくれていました。」店の姿勢が明確に出ていた、遊び心が楽しい一皿。「あらためて作ると大変ですが、オリジナルで大胆な発想を形にする姿勢は、僕自身とても勉強になりました」
食パンはパスタマシンで薄く伸ばし、縦4cm横1cmの縦長に切ってからオリーブオイルを塗る。オーブンシートに挟み、170℃に熱したオーブンで8分焼き、チュイル状にする。
白インゲン豆とブロードをブレンダーにかけて滑らかなスープにする。濾して塩で味を調える。